行動心理学(Behavioral Psychology, Behaviorism)とは、人間や動物の行動を観察・分析し、その行動の原因やパターンを科学的に理解しようとする心理学の一分野です。行動主義とも呼ばれ、特に20世紀前半に発展しました。
行動心理学では、行動の原因を環境要因や外的な刺激に求め、内的な心理状態(感情や思考)よりも「観察できる行動」に焦点を当てます。このため、行動心理学は実験や観察を通じてデータを収集し、予測可能な行動パターンを見つけ出すことを重視します。特に有名な理論や手法としては、以下のものがあります:
- 古典的条件付け(パブロフの犬):中性の刺激と反応を連動させ、特定の条件で反応が引き起こされることを示しました。たとえば、犬がベルの音で餌を連想し、唾液を分泌するようになる実験が知られています。
- オペラント条件付け(スキナー):行動の結果(報酬や罰)によって行動の頻度が変わることを示しました。スキナーは、ポジティブな結果が得られるとその行動が強化され、ネガティブな結果があると行動が抑制されると主張しました。
- 行動変容法:不適応な行動を変えるために、報酬や罰、環境調整などを用いて、新しい行動を教える手法です。
行動心理学は教育、ビジネス、精神医療など、さまざまな分野で応用され、特に行動療法として、うつや不安障害などの治療にも役立っています。
行動心理学とオーディオ・リンガルメソッド(Audio-Lingual Method, ALM)には密接な関係があります。オーディオ・リンガルメソッドは、第二言語学習の教授法の一つで、主に行動心理学の理論、特にオペラント条件付けと古典的条件付けに基づいています。
オーディオ・リンガルメソッドの概要
オーディオ・リンガルメソッドは、第二次世界大戦後の米国で発展した言語教育法で、特に軍事での外国語教育に採用されました。この方法は、学習者が反復練習や模倣を通して、ターゲット言語の音声パターンや構造に慣れ、正確な発話ができるようにすることを目的としています。
行動心理学との関係
ALMの特徴は行動心理学の原則を活かしている点です。具体的には以下のような要素が関連しています:
- 模倣と反復練習:行動心理学の理論に基づき、ALMでは学習者が教師の発話を模倣し、それを何度も反復します。この反復練習を通じて、発音や文法構造を「習慣化」させることが目指されます。これはオペラント条件付けの「反復と強化」による学習の原理に関連しています。
- 強化(リワードと罰):ALMでは正しい発話には即座にフィードバックや称賛が与えられ、誤った発話は訂正されることで学習を促進します。これも行動心理学に基づく強化の一例で、正しい行動が繰り返されることで学習が進みます。
- 構造重視:ALMでは、文法や構文に基づいたダイアログやパターンドリルを使って学習を進めます。行動心理学の観点では、複雑な行動も小さなステップに分けて学ぶことで、学習が効率的になると考えられており、ALMもこのアプローチを取ります。
メリットと課題
ALMは、正しい発音や言語パターンの習得には効果的とされていますが、行動心理学に基づいているため、コミュニケーション能力(発話の自然さや即興的な応答)は他の教授法に比べて劣ると指摘されています。また、行動主義心理学が内的な思考や理解よりも観察可能な行動を重視するため、ALMでは言語の「意味理解」よりも「正確な発話」が優先されがちです。
まとめ
オーディオ・リンガルメソッドは、行動心理学の条件付け理論を応用した教育法で、特に反復や模倣、強化を通じた第二言語習得を目指しています。