日本語は文体差が大きいと言われます。
今回は「書き言葉」と「話し言葉」を比べてみたいと思います。
この記事を見る前に、みなさんも「書き言葉」と「話し言葉」は何が違うか考えてみてください。
自分では何も思いつかないという人のために「書き言葉」と「話し言葉」の例を用意しました。
「書き言葉」と「話し言葉」の例を見比べながら、違いを考えてみてください。
書き言葉の例
吾輩(わがはい)は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当(けんとう)がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生(しょせい)という人間中(にんげんじゅう)で一番獰悪(どうあく)な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕(とら)えて煮て食うという話である。
話し言葉の例
A:あ、こんちゃーす!
B:おう!
A:うち、猫っすー。
B:オレは犬だ。よろしく。オマエ、名前は?
A:いやー、まだないんすよー。
B:生まれはどこなん?
A:ぜんぜんわかんないんすよー。なんかー暗くてージメジメしたとこでー、ニャーニャー泣いてたことは覚えてんすけどぉー、…あ! そこで、うち、初めて人間、見たんすよ!
B:ああ、人間。
A:そうっす! しかもー、あとでマブダチにきいたらー、書生っていう人間中で、いっちゃんやべえタイプだったらしんすよぉ。この書生ってやつはときどき、うちらをつかまえて、煮て、食うって話なんすよ!
B:そいつはやべえな。
A:あ、書生の声がするっす!
B:まじか! 逃げろ!
A:うす!
話し言葉と書き言葉を比べました
話し言葉は場面依存性が高く、書き言葉は場面依存性が低い
場面依存とは、場面に依って存在すること。つまり、場面が必要、場面がなきゃ生きていけないの! 恋愛依存、パチンコ依存、アルコール依存、買い物依存、世の中にはいろいろな依存であふれておりますが、今回は場面依存です。
例えば、上の話し言葉の例ではAがBに話しかけていますが、これはBがいる場面でなければ成立しません。その場面にBがいるので話しかけることができています。場面が必要です。
場面依存性が高いです。
一方、書き言葉は場面に依存しません。自室でも職場でもスタバでもトイレでも、同じ文を書くことができます。場面は不要です。
場面依存性が低いです。
話し言葉は対面性が高く、書き言葉は対面性が低い
対面とは、顔を合わせること。
上の例のように、話し言葉を使う時は一般的に相手と顔を合わせていますので、対面性が高いです。
一方、書き言葉は顔を合わせなくても書けます。
話し言葉は即興性が高く、書き言葉は即興性が低い
話し言葉はジャムセッションのように相手の発話に応じて使います。何を言うかはその場で考えるので即興性が高いです。
一方、書き言葉は何度も書き直して推敲することができます。即興性が低いです。
話し言葉は、終助詞、応答詞、感動詞が現れやすく、書き言葉は現れにくい
「見たんすよ」「やべえな」のように話し言葉では終助詞をよく使います。
「おう!」「うす!」のように話し言葉では応答詞をよく使います。
「こんちゃす」「ああ」のように話し言葉では感動詞をよく使います。
一方、書き言葉ではこれらの言葉は現れにくいです。
話し言葉は助詞の脱落が多く、書き言葉は助詞の脱落が少ない
「吾輩は猫である」→「わがはい、ねこっす」のように話し言葉ではよく助詞の脱落が起こります。
一方、書き言葉では助詞を書くことが多いです。
「吾輩猫である」
書き言葉に助詞がないと単語の切れ目が分かりにくくて読みにくいです。
話し言葉は縮約性が高く、書き言葉は縮約性が低い
縮約とは、縮めて短くすること。
書き言葉「じめじめしたところ」 話し言葉「じめじめしたとこ」
書き言葉「泣いていた」 話し言葉「泣いてた」
話し言葉は「う」や「い」が省略されて短くなっていますね。
助詞が脱落したり縮約したり話し言葉は文の成分の省略が多いです。
一方、書き言葉は文の成分の省略が少ないです。
「書き言葉と話し言葉」が出題された日本語教育能力検定試験の過去問
・平成30年度日本語教育能力検定試験Ⅲ問題1問1【書き言葉と話し言葉】